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余話噺4信長公

余話噺4信長公
  目次 余話噺1こと始め5/7--余話噺2美味しい噺5/10--噺3北野
   劇場5/12--噺4信長公5/22
 写真 1場内土産屋5/10--2城の北門5/12--3西側からの城門5/22

 会社を退職した時に小説を書こうと、酔うわ話として南蛮人から
見た本能寺の変を取り上げたが、辛気くさく辞めました。
 さわりだけを載せたので続きは興味がある人が後自由に。

信長公史記
 一.始めの事
 天正五年初夏、京の洛中洛外に流れる調べが午後の日差しを和ら
げて街行く人の頭上に降りて来る。ここ南蛮寺の礼拝堂に集(つど)
う人々はこの世のものとは思えぬ調べに魂をも奪われ夢心地に居た
。 春霞む雲が流れゆく如く、それは甘く切なく頭先を痺れさせる
のであった。 この乱れた世を統一しようとしている武士達は、南
蛮人がもたらしたオルガンの音(ね)に合わせて歌う少年達の賛美歌
を初めて聴く調べだけに身も心もとらわれて痴呆のように其処に集
(つど)う人々であった。神をうやまいて、仏を尊ぶこの御国に遙か
遠くより到る南蛮の心根優しき風情は何時しか人々に垣根を越えた
身に魂尽くのであった。
 その中に一人右大臣信長公の横顔を何時も傲慢な殿がこの様に美
しく整い穏やかに過ごされているのを見たことがないと思いながら
猿は見ているのである。そして、この賛美歌の調べに身を震わせな
がら思いを馳せているのである。
 殿は小さきみぎりより休みなく働き詰で、織田家内部の紛争を平
らげ、尾張・美濃を併合し、浅井・朝倉を姉川の合戦で打ち破り、
長篠の戦いで武田を破ってから、天下不布の光が見えてきた。
 その一刻の暇をウルガン伴天連の案内でここにいるのである。
いま殿は何を思念しておいでであろうか、この先どのような世を描
いているのであろうか。その波動を俺は心底から受与して御奉公に
尽くすのだ。それが俺の生き甲斐なのだ。 備中高松も落とし、毛
利も後一息、日ノ本の制覇も直(すぐ)であろう、これからの世を殿
と共に築いていくのだ。
 こんな思いの猿ら一行を送り出し聖堂に戻ってきたマリヤはふと
被昇天の聖母を見上げると、その異常さに手を胸によろけ喘ぐので
あった。遙か遠い海の果てから来たウルガン様も、それを見るや慌
てて胸に十字を切りり、黙祷するのであった。 それは優しい聖母
様のお顔に音もなく静かに左目から血の涙が糸の如く滲み出て頬を
伝って流れているのであった。 この涙の意味は何を暗示している
のであろうか、ここ東洋の異質の世界との出会いが将来起こるであ
ろう破滅の予感に恐れおののくのか、それとも因をなす哀れな殿御
の未来を悲しむのであろうか。

二、終わりの事
 天正十年初夏、京の洛中洛外に音もなく流れる調べは午後の日差
しを曇らせて街行く人の頭上に降りて来る。ここ南蛮寺の礼拝堂に
集(つど)う人達はこの世のものとは思えぬ調べに魂をも奪われ愁嘆
に暮れるのであった。秋霧の雲が流れゆく如く、それは哀しく切な
く頭先を痺れさせるのであった。
 この南蛮人がもたらしたオルガンの音(ね)に合わせて歌う少年達
の愴愴の調べだけに身も心もとらわれ悲嘆に暮れて、其処に集う人
達であった。 神を敬いて、仏を尊ぶこの御国に遙か遠くより到る
南蛮の心根優しき風情は何時しか人々に垣根を越えた身に魂尽くの
であった。 その日の早暁、右大臣信長公の何時もの傲慢で美しく
整い穏やかな顔つきの横顔が、反逆者の為に誣(しい)られて今はな
く、マリアとウルガン伴天連が被昇天の聖母の前に額ずくのであっ
た。 突然の宗門理解者の死に嘆き悲しむのであった。
 しかし、優しい聖母様のお顔は音もなく静かに安堵の微笑みを浮
かべているのであった。 それはこの世の秩序を保った平和の勝利
であろうか。
次回へ。

写真 3西側からの城門です。
  この池田城趾は荒木村重の乱時、信長公に焼かれたが近年再建された。

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